万城目学「鴨川ホルモー」

鴨川ホルモー

鴨川ホルモー

「ホルモオオオォォォ−ッッ!!!」
今夜も京の街に謎の叫びがこだました。


二浪の末京大合格を果たした安倍は葵祭でバイト中、友人の高村と「京大青龍会」なる謎のサークルに勧誘される。
はじめは乗り気でなかった安倍だが、新歓コンパで同じく新入生早良京子(の鼻)にひとめぼれしたのをきっかけにサークルに顔を出すようになる。
愛しき鼻(ひと)に思いを告げられず悶々とする安倍。帰国子女なのにファッションはいかにも京大生、略して「イカキョー」な高村。凡ちゃんカットが勇ましい楠木ふみ。

それぞれの思惑が交差する中時は流れ、吉田代替わりの儀の日がやってくる。
ホルモーとは、1人100体の「オニ」を使役し戦う由緒正しき闇の競技であった。
茶巾絞り顔のオニにチョンマゲ男、京の街は魑魅魍魎が跋扈する戦場と化す。


ラノベテイストであっさり読める娯楽本といったところでしょうか。
非モテダメ男でさだまさし信者という設定の安倍はまぁよくありがちな主人公ですが、鼻フェチってのはありそうでなかったジャンルかな。
凡ちゃんあらため吉田の孔明こと楠木ふみや、良いヤツなれどどっかずれてる高村といった脇役も好もしい。
ホルモーですが、競技者が直接戦うことはないので、ようするにピクミンみたいな競技ですな。
細かい設定が結構面白くて、例えばオニはダメージを受けると茶巾がどんどんへこんでいき、いずれは昇天してしまうのですが、レーズンを食べるとその茶巾がぽこん、ともどるそうな。なぜレーズン?


実は小説を読む前に映画を観てしまったため、登場人物や風景が画像付きで再生されました。(第一印象に引きずられてしまったと言った方が正しい)
映画は設定こそ小説を忠実になぞっているものの、小説では表現しきれなかったディテールが盛り込まれエンタメ要素150%アップ(当社比)となっております。


高村を演じる濱田岳さんがとにかくツボなので、それだけで十分なのですが、なにより小説ではほとんど解説されることのなかったオニ語がふんだんに登場するのが素晴らしい。
オニを使役するために使われること独特の言語「朝の洗面台で嘔吐くおっさんのような」響きだそうで、

「アイギュウ・ピッピキピー」(我に続け)
「ゲロンチョリー!」(潰せ)
「ブリ・ド・ゲロンチョリー!!」(マジ、ぶっ潰せ)

などなど、へんてこ極まりない。
映画ではオニ語を発する度にいちいちへんてこポーズを決めねばならない制約があるのも素晴らしいのです。
楠木ふみ役の栗山千明があのキレーな顔で「ゲロンチョリー!!」と叫ぶ姿に萌えました。
吉田代替わりの儀式は必見です。


正直森見登美彦作品で描かれる京都の方が幻想風味豊かなのではありますが、青春小説として読むならばホルモーの方がすとん、と腹に落ちてきます。
くだらないことを真剣にやってのける人間の姿以上に観るものの心を打つ風景はありませんから。


ちなみに京大の原理研究会というサークルが「鴨川ホルモー探検記」をブログに載せてくれてます。
現役京大生から見た鴨川ホルモーのある景色ってのもなかなか趣がありますな。
森見さんといい、京大はユニークな人材のたまり場なようです。