恩田陸「ネバーランド」

ネバーランド

ネバーランド

昨年9月から放置プレイが続いておりました雑読にき。
それなりに読んではいたのですが、書き留めておくほどの本に出会えませんでした。
月1くらいで書けるといいんですけどねー。今年はいい出会いがあるといいな。


さてさて、2013年第一弾は恩田陸さん。
「六番目の小夜子」「ライオンハート」「夜のピクニック」に続いて4冊目でした。
4冊読んでみた感想としては…出来が極端ですね恩田作品。
「六番目の小夜子」が非常にいい出来だったのでワクワクして読んだ「ライオンハート」はあまりに残念。なんかこうがっくり力が抜ける読了感というか、思い出したくもないわ。
そして1年ほど間をあけて手に取ってみた「夜のピクニック」と今回の「ネバーランド」は素敵でした。
恩田さんは輪廻転成ファンタジーとか歴史ものに手を出さず、学園ものを書いておけばいいんじゃないかな。


舞台は全寮制の男子高校。
冬休みに入り閑散とした寮で、それぞれの事情で帰省しない美国、寛司、光浩、統の4人が7日間を過ごす。
イブの夜の「告白」ゲームをきっかけに、4人の抱える秘密が明らかになっていく。
4人ともちょっと大人すぎるというか、かっこよすぎるので青春小説としてのリアリティはないのですが、だからこそセンスのいい会話を楽しめる。


学生時代ってのは今から思えばすごく変な時代だった。
みんな同じ制服を着て、名前入りの上履きを履いて、同じ方向を向いて、同じ黒板を見て勉強。
四角い机と四角いロッカーが割り当てられていて、学園生活のすべてがそこににきっちり収まることを要求される。
起立、礼、着席。
号令と時間割にそってこまぎれに流れていく時間。
でもその時間が一瞬で、いつか教室から出ていかなければならないことは誰もが気付いてたと思う。
期間限定の人間関係と期間限定の自分と。何を見せて何を見せないか、実験室みたいな空間だった。
その辺が巧く描けていると思います。


だからこそ、なんでこの青春小説が「ネバーランド」
なのかをずーっと考えてた。
だってネバーランドはずっと大人にならない子供が住むところでしょう?
冬休みが終わればみんなが帰ってくる学校の寮はどう考えてもネバーランドじゃない。
大人になって巣立っていく少年達の卒業アルバムの1ページをネバーランドとは呼ばない。
じゃあなんでこのタイトルなのか。


ピーターパンを初めて読んだのはピンクの岩波文庫でした。少年用じゃなくて、大人用の。
海賊の頭の皮を剥ぐインディアンやら置き去りにされると溺れ死ぬ置き去り岩やら、残虐描写満載なんですよね。
ウェンディ達の実家ダーリング家ではでかい犬を乳母にしているんだけど、子供達がいなくなっちゃった後、犬を鎖に繋いだことを後悔する父親が犬小屋に暮らすようになり一躍メディアの寵児になったり、なかなかシュールなエピソードもあったりして。
そのイメージが強かったのであとでディズニーのアニメを観たときは毒気の少なさに「子供だましかよ!」って腹が立った記憶がある。なんでティンクがしゃべんねん!みたいな。


今その文庫が手元にないのではっきりしないのですが、確かピーターパンは産まれてすぐ乳母車から落ちてロンドンのどっかの公園で迷子になって、気付いた時にはネバーランドにいたって設定だったかな?
親が悲しんでるかなーって家を訪ねてみたら別の男の子がゆりかごの中にいて…。
それって間違いなく死んであの世に行ってるわけで、そりゃ大人になるはずない。


で、永遠に大人にならないピーターパンは、ウェンディに「お母さんになってよ」って誘って連れて行くんです。
でもウェンディだってまだ子供。
彼女の中の「お母さん」は炊事洗濯つくろいもの、それから嫌がる子供達に水薬を飲ませるだけの存在なわけで、ようするにおままごとでしかない。ピーターに「お父さん」役はできないし、大人であるはずの海賊やインディアンも母親を求めてる。
そしておかしなことに、大人になって本当のお母さんになってしまったウェンディはもうネバーランドに行く資格がない。


ネバーランドに欠けているもの、それは「母親」である。
そう考えると、4人の男子が共通して抱える欠落感に思い至ります。
子供の頃母親に目の前で自殺された統。
父親とその愛人である母親が心中し、残された正妻と暮らす羽目になった光浩。
「親としてでなく1人の人間としての幸せ」を追求すべく離婚協議中の両親を持つ寛司。
そして小さい頃父親の愛人に誘拐されて以来、大人の女性に恐怖感を持つ美国。


保護者でかつ自分を全面的に守ってくれる(おままごとの)母親。
色気も水気も汚さもある大人の女性ではなくて、優しくて綺麗なだけの母親。
それが主人公4人には欠けているのです。
美国だけちょっと違うからかな、他の3人よりもだいぶ素直というか普通というか、キャラ付けが物足りない。
でもその素直さが、大人にならざるを得ない環境で擦れちゃってる3人にはたまらない魅力なのでしょう。
もしかしたら3人にとっては美国こそがネバーランドなのかもしれません。