「ロズウェルなんか知らない」篠田節子

ロズウェルなんか知らない (講談社文庫)

ロズウェルなんか知らない (講談社文庫)

篠田さんの本はこれで3冊目。
神鳥、女たちのジハード、と名は体を表す2作品を読んでいたので、題名から勝手に異星人・UFO系サブカルネタ、もしくは政府の隠蔽を暴くサスペンスストーリーか?と期待していたのだが、見事に裏切られた。
ロズウェル事件、出てきません。キャトルミューティレーション、しません。(残念)
でも、読み終わってあぁなるほど、と腑に落ちる。そこはやっぱり篠田さんの力量といえよう。


物語の舞台は過疎に悩む町、駒木野。
2,30年前までは首都圏から人を呼べるスキー場があり、それなりのにぎわいを見せていた駒木野だが、新幹線と高速道路ができて以降スキー場も撤退し、閑散とした民宿街には閑古鳥が鳴くばかり。
殿様商売にあぐらをかいてきた村の老人達はスキー場さえ撤退しなければ…ゴルフ場さえできていれば…と愚痴を連ねるだけで、旧態依然としたやり方を改めようとしない。
2030年には人口がゼロになってしまうというお先真っ暗なこの町に取り残されてしまった駒木野青年クラブの若者たち(といっても30代ー40代)は、閉塞感に打ちのめされつつもあの手この手で町おこしに取り組む。


ブレイクスルーをもたらしたのは、自称文筆業の変人・鏑木だった。
土地付き一戸建て住宅を賞品にしたカラオケ大会で優勝するや、ちゃっかり駒木野青年クラブに混ざって町おこしに奇想天外なアイデアを出しまくる。
ストーンサークルねつ造から始まり、廃墟と化した遊園地をオカルト色満点の不思議ランドに作り替え、さらには幽霊や座敷わらし、UFOを登場させ、駒木野を一躍「日本の四次元地帯」に仕立て上げてしまうのだ。
最初は難色を示していた老人たちも、オカルト雑誌やテレビの取材で人が集まるようになってからは一転、虚構の世界にどっぷりはまり込んでいく。


一番の見所は、主人公(一応)の靖夫の母で、民宿「きぬたや」の女将が、オカルト番組の取材に対し、突然ありもしない雛人形伝説を語り出すところだろう。
遺跡もない、温泉もない、仕事もなければ夢もない、そんな駒木野青年クラブのやぶれかぶれのエネルギーが住民みんなを巻き込んでファンタジーを現実にしてしまう。
古風で常識的な靖夫の母まで悪ノリに巻き込んでしまう、大掛かりな文化祭のような意味の分からない熱狂は、まさに「四次元地帯」の仕業かもしれない。
結局ちゃちなやらせはすぐに暴かれ、青年クラブの面々は町を敵に回してしまうのだけれど、手作りの町おこしは地道に町の知名度を上げており、また町には活気が戻るかも?といった終わり方になっている。
(最後に嘘がホントになるシーンがあるのだが、完全に蛇足。あれはいらなかった…)


これだけだと単純なコメディなのだが、篠田さんの作品に共通する屋台骨というか、世界観というか、細かい設定がしっかり練り込まれているため、読み応えがある。
ハコものを優先し巨額を投じて失敗する行政主導の町おこしへの反感や、世代間の対立、昔からの住民と新住民の衝突。
過疎の町の若者が抱える都市への屈折した憧れと嫉妬。
なかでも青年クラブと行政職員のやりとりは非常にリアルで面白い。
オランダ村だのドイツ村だの、一時期はやったハコもの村おこしから、安価で維持可能な草の根町おこし(B級グルメとか)へとシフトしている昨今、フィクションとはいえ駒木野モデルがあってもいいんじゃないかとさえ思う。


ただ、「日本の四次元地帯・駒木野」は一過性のブームで終わりそうだ。
地場産業と結びついたわけでも、持続可能な収入源を得たわけでもなく、所詮観光客の落とす金頼みでしかないもの。
これじゃやっぱり駒木野の未来は暗いんじゃ…と勝手に心配になってしまう。


また「女たちのジハード」ほど個々のキャラが立っていないこともあるのだが、物語の序盤は正直テンポが悪く、登場人物の見分けがつかない。
中盤以降にようやく青年クラブの面々がそれぞれ個性を発揮して物語を引っ掻き回してくれるのだが、かなり後半になるまで鏑木以外の活躍が心に残らない。
町から来たストレンジャー対青年クラブという構図がまとまりすぎていてダメなのか、それとも篠田さんは男性中心の物語は苦手なのかな?