北方謙三「望郷の道」

望郷の道〈上〉

望郷の道〈上〉

ハードボイルドってなんじゃい?
常々思っておりました。
固ゆで?冷酷非道な男塾?大豪院邪鬼?
よくわからないジャンルなれど、北方謙三さん=ハードボイルドって方程式は知ってたw


読んでみなきゃ分からんってんで、初北方作品に挑戦。
日露戦争間近、石炭景気に沸く北九州・筑豊炭田。遠賀川下りで石炭を運ぶ水運業を営む小添家の三男正太は、佐賀で古くから賭場をいとなむ藤家の女親方瑠偉の婿養子になる。賭場を継いだ正太は持ち前の商才を発揮し、見る見るうちに賭場を拡大していくが、当然よその賭場は面白くない。成功をねたむ遠野一味のあこぎなやり方にぶち切れた正太は、日本刀片手に遠野宅へ乗り込むが、すんでのところで止められ、九州所払いとなる。
九州追放後、単身台湾へ渡り製菓工場を立ち上げた正太。瑠偉は子連れで正太の後を追い、2人は再び苦難を共にする。成功を収めた正太と瑠偉の胸によぎるは捨ててきた望郷の想い。
思い出の古場の湯に2人が帰れる日は来るのだろうか。


これがハードボイルドってものなのかどうか私には判断がつきかねるところだが、男くさーいアウトローな世界で成り上がってく男の生き様がかっちょよく書かれてて清々しかった。


愛刀の延寿国村ひっさげて喧嘩(でいり)に向かう正太。
連れ添う瑠偉は懐に匕首、脱いだ片肌に緋鯉の刺青が泳ぐ。
完全に東映ヤクザ映画のノリなんですが、いや、シブいわー。
「うちん者ば、預かっとろう。返して貰いにきたばい」
九州弁で切る啖呵がこれまた方言フェチにはたまらない。
特に瑠偉姐さん、ほれぼれするわぁ〜。


正太は北方さんの曾祖父で「新高ドロップ」で知られる新高製菓の創業者・森平太郎氏がモデルとのこと。
主人公補正(+身内フィルター?)がかかるとはいえ、ふりそそぐ艱難辛苦にもめげず商才と合理性、手腕を発揮して仕事で成功を収めていく様子ってのは気持ちいい。
山口豊子さんの不毛地帯じゃないが、ずいぶんと商売のことがでてくるなぁと思ったら元々日経新聞に連載されてたのね。
立志伝中、成り上がり。ビジネスマンの好きそうなテーマなれど、日本が、日本人が必死に伸びようとしていた明治の頃の熱気を丁寧に描写していること、それに方言が醸し出すリアリティのおかげで、単純な成功ドラマを越えた読みものになってる。


ハードボイルドってジャンルはまだよくわからんけども、北方作品はもう1つ2つ読んでみるわ。