森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」

夜は短し歩けよ乙女

夜は短し歩けよ乙女

諸君、異論があるか。あればことごとく却下だ。

どうしよう、圧倒的に面白い小説をみつけてしまった。
舞台は京都、後輩である黒髪の乙女に恋する大学生の「私」が主人公。
天真爛漫、清楚にして勇猛果敢。わくわくすれば二足歩行ロボットのステップを踏み、腐れ外道には「おともだちパンチ」をふるまう。そんな彼女に魂をわしづかみにされて以来、「私」は「なるべく彼女の目にとまる作戦」略して「ナカメ作戦」を決行中。西に東に七転八倒を続けている。

彼女が後輩として入部してきて以来、すすんで彼女の後塵を拝し、その後ろ姿を見つめに見つめて数ヶ月、もはや私は彼女の後ろ姿に関する世界的権威と言われる男だ。


春は桜の先斗町。
酒場を渡り歩き偽電気ブランを鯨飲する乙女を追いかけゆけば、空から落ちてきた緋鯉に頭を打たれて気絶。


炎天下の下鴨古本市では、乙女の思い出の絵本を奪取すべく怪老人の催す我慢大会に飛び入り参加し、「下鴨神社を中心とした半径二キロメートルに存在する『辛さ』という概念を、一切合切拾い集めて煮込んだのではないかと思われるほど」辛い火鍋を囲んで死闘を繰り広げる。


学園祭では緋鯉のぬいぐるみを背負って転がるだるまを追いかける乙女の後をよろぼい追いかけ、学園中を右往左往。虚仮の一念岩をも砕くというべきか、念願かなってゲリラ演劇「偏屈王」で乙女とラブシーンを演じる。


季節はめぐり、険しい恋路もなんのその、ストーカーばりの「奇遇な出会い」を積み重ねるも、なにせ乙女はテラ天然。
恋心に気付くどころか、本当に奇遇な出会いだと思っているようで。
迂回に迂回を重ね「永久外堀埋め立て機関」と化した不器用なへたれ大学生、四畳半の勇者の苦悩に頭をかきむしる姿のなんと愛おしきことよ。


森見節の面白さを伝えるには圧倒的に筆力が足りないんだが…洗練された妄想世界とでも言おうか。
妄想と現実が入り乱れ、妖怪もどきの登場人物が跳梁跋扈する。
あぁ、めくるめく京都はやはり魔都なのか。(つーか京大、楽しそうすぎ)
てんこもりになった仰々しく古めかしい言葉の間に、「ちっちゃな頃だけ悪ガキでした」とか「恐ろしい子!」とか、80年代前半生まれの心をわしづかみにするフレーズが散りばめられており、もうなんていうか…大好きだ。もっと読みたい。もっとないのか。


しかし森見さん、どうやら多忙がたたって休筆中とのこと。
次作を待つ我らとしては、乙女の祈りを借用するほかありません。
森見様、どうぞ次を書いて下さいませ。なむなむ!